グローバルな技術競争が激化し、知的財産保護への意識の向上に伴い、特許審査の効率性並びに権利付与までの期間は、企業とイノベーターにとって重要な関心事となっています。中国では、特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway、PPH)がその効率的な審査モデルにより、広く注目され、積極的に活用されており、革新成果の迅速な保護と市場化を強力に支援しています。その実施と発展を積極的に推進し、そのメカニズムを絶えず改善することで、イノベーターにより便利で効率的な審査ルートを提供することが可能となります。
一、PPH及び改善イニシアチブ
PPHは、国際的な特許審査協力メカニズムの一つであり、PPH協力協定を締結した各特許審査機関間で審査結果を共有することで、特許審査プロセスの迅速化を図る制度です。出願人の外国出願において少なくとも一つの請求項が外国の審査機関により権利付与可能と認定された場合、又はPCT国際段階における審査結果(以下「先行審査結果」という)が肯定的である場合、当該メカニズムに基づき、その対応する中国出願について中国国家知的財産局(以下「CNIPA」という)に対して加速審査を請求することができます。請求が受け入れる場合、中国の審査官は速やかに当該中国出願に対する実体審査を実施します。
中国は2011年11月に最初のPPHパイロットプロジェクトを開始し、現在では既に米国、欧州、日本、韓国、ロシア等30以上の国・地域の特許審査機関とPPH協力関係を構築しています。出願人に対して継続的に効率的かつ便利なPPHサービスを提供するため、CNIPAは複数の外国知的財産局との間でPPHパイロットプロジェクトの期間再延長を複数回実施しています。近年、CNIPAの年間PPH請求受付件数は、約5,000件となっています。
2024年、CNIPAは中米欧日韓の知的財産五局(IP5)協力の「PPH改善イニシアチブ」に参加し、2024年度のPPH初回審査意見通知書の平均期間及び出願人からの意見へのPPH回答の平均期間の目標を3ヶ月に設定し、ユーザーエクスペリエンスのより一層の向上を図りました。中国は同イニシアチブへ加入し、さらに特許審査ハイウェイの高速運行を約束及び保障しました。当社の実務経験から見ると、当該設定目標は既に達成されていると思います。
二、PPH請求の条件
中国国家知的財産局にPPHを請求するためには、以下の条件を満たす必要があります:
1、対応する中国出願が発明特許出願であり、かつ既に公開されていること。
2、出願が実体審査段階にあること、または実体審査請求と同時にPPH請求を提出すること。
3、中国出願での審査待ちの請求項が、先行審査結果で特許権付与可能と認められた請求項と十分に対応していること。
4、PPH請求提出時点で、CNIPAが当該中国出願の実体審査をまだ開始していないこと(すなわち、審査意見通知書をまだ発送していないこと)。
実務上、出願時の最初の請求項と、先行審査結果で特許権付与可能と認められた請求項とが一致しない場合が多くあります。したがって、出願人は、自発補正の機会を利用して、中国出願の審査待ち請求項を、先行審査結果で特許権付与可能と認められた請求項と十分に対応するように補正する必要があります。「十分に対応する」とは、同一または類似の請求項範囲、あるいはより狭い請求項範囲を指します。提出されたPPH請求が「十分に対応していない」ことを理由に審査官により却下された場合でも、審査官が中国出願の実体審査を開始する前であれば、出願人は請求を再度提出する機会が1回あります。この場合、出願人は、補正後の請求項が十分に対応していること、そしてその補正が自発補正可能な期間内に行われたものであることを確保する必要があります。
三、PPHルートの長所及び短所
長所1:審査速度の迅速化
PPHの承認後、通常2~3ヶ月以内、場合によってはそれよりも速く初回の審査意見通知書が発送されるため、審査プロセスが加速され、権利付与までの期間が短縮されます。前述のとおり、2024年に中国が参加した「PPH改善イニシアチブ」においては、PPHに係る初回審査意見通知書の平均期間及び出願人からの意見へのPPH回答の平均期間の目標は3ヶ月に設定されています。2024年度のデータによれば、CNIPAが受け付けたPPH請求案件において、PPH請求の適格性が認定されてから初回審査意見通知書が発送されるまでの平均期間は2ヶ月未満であり、改善イニシアチブに設定された目標を完全に上回っています。また、PPH請求の適格性が認定されてから案件が完了するまでの平均期間は8ヶ月未満であり、これは出願人にとって非常に迅速なレベルです。
長所2:費用の削減
中国においては、PPH請求自体には官費がかかりません。また、2024年のデータによりますと、PPH案件における平均審査意見通知書発送回数は2回未満です。これに伴い、通知書回数が大幅に減少するため、出願人は応答回数、およびそれに伴う代理人費用、期間延長費用などの各種費用を削減できます。
長所3:権利付与率の高さ
中国出願のPPH請求の基づいた外国出願又はPCT出願は、既に先行技術の検索及び審査を経て肯定的な先行審査結果を取得しています。世界各国・地域の特許審査基準には差異がありますが、新規性及び進歩性の判断原則については基本的に一致しています。そのため、PPHルートを使用しない出願と比較して、PPHを請求した出願の権利付与率は大幅に向上する傾向にあります。
当社の実務においても、権利付与率が高いという特徴を確認しています。当社が代理したPPH案件の統計によりますと、CNIPAに対してPPHを請求した案件は基本的に全て承認されています。PPHで承認を受け且つ案件が完了したもののうち、約3%の案件は審査意見通知書(OA)の発送なしに直接に権利が付与されています。1回のOA後に権利が付与された案件は約46%、2回のOA後に権利が付与された案件は約24%、3回以上のOA(再審査段階の再審査意見通知書を含む)後に権利が付与された案件は約12%を占めています。また、形式上の問題に対する応答後に権利が付与された案件は約47%、OAにおいて新規性・進歩性の問題が指摘された後、反論のみにより権利が付与された案件は約8%、補正後に権利が付与された案件は約27%です。全体の権利付与率は約85%となっています。
長所4:同日出願の発明特許出願に利用可能
同日出願は中国特有の制度であり、出願人は同日に同一の技術方案について発明特許出願及び実用新案特許出願を同時に提出することができます。当該制度は、出願人に対してより柔軟な特許保護戦略を提供することを目的としており、実用新案出願の速やかな権利付与の特徴を活用して迅速に保護を取得できるとともに、発明特許出願を通じてより長期間の保護を求めることが可能となります。しかしながら、当該同日出願に含まれる発明特許出願について通常では優先的に審査されることはないです。そのため、同日出願を行った場合、PPHは発明特許の審査を迅速化するために考えられる主要なルートです。
短所1:請求条件の制約
PPH請求は審査速度の迅速化を実現する一方で、多くの制約が存在します。特に請求のタイミング及び請求項の「十分な対応」に関する要件については、請求項は基本的に先行審査結果において権利付与可能と認定されたものに限定され、且つ最終的な自発補正の機会の前にPPH請求を提出する必要があるという制約があります。
短所2:分割出願戦略への影響
中国には継続出願又は一部継続出願の制度が存在しないため、分割出願の提出が審査を継続する唯一のルートとなります。親案の案件が完了し、第1世代の分割出願がまだ審査過程にある場合、第2世代の分割出願を提出するための条件は、審査官が第1世代の分割出願において単一性の問題を指摘したことです。
この場合、当該分割出願でPPHを使用すると、少なくとも次の二点の問題が生じます。一つは、外国出願において権利付与可能と認定された請求項には通常単一性の欠陥がないため、第2世代の分割出願の機会が完全に失われることです。もう一つは、PPHの制限によれば分割出願の請求項が権利付与可能な外国出願の請求項に十分に対応する必要があるということのため、保護を求めるその他の請求項は基本的に当該分割出願に含めることができず、加えて第2世代の分割出願の機会もないことから、その他の保護を求める請求項については保護を求めることはできないことです。
そのため、出願人は、親案についての分割出願を提出できる期間内に、PPHを請求する分割出願のほか、保護を求めるその他の請求項を全て包含するための、追加の分割出願を提出する必要性についても検討する必要があります。
四、まとめ
PPH改善イニシアチブの実施は、CNIPA が特許審査ハイウェイ(PPH)プロジェクトに対する再度の約束を示すものであり、CNIPAは既により短い審査期間を達成し、自身の約束を履行しています。中国が欧米日韓と同一の審査期間目標を採用したことで、出願人は審査の進捗をより正確に予測し、特許出願戦略及び事業活動をより適切に計画することができるようになるだけでなく、国際的な特許審査協力の発展を推進するものとなります。
CNIPAによる、PPHプロジェクトへの継続的な投入は、イノベーション主体にとって重要なメリットとなります。前述のとおり、PPHルートは特許審査の加速、権利付与期間の短縮、特許に係るコストの削減を実現することができます。イノベーション主体はPPHのルールを深く研究し、柔軟に活用することができれば、自らの特許戦略に大きく利益をもたらすことになります。
イノベーション主体がPPH請求に関して疑問又はニーズがある場合は、いつでも当社にご連絡ください。知的財産権分野での豊富な経験に基づき、こちらはPPHプロジェクト評価、PPH請求などを含む、特許の企画、出願、保護に関する全方位的なサービスを提供し、イノベーション主体がPPHメカニズムを効率的に活用し、審査期間を短縮し、権利付与率を向上させることを支援します。
以上の内容または知的財産権保護に関して疑問がある場合は、メールまたは電話でご連絡ください。
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