コラムとケーススタディ

医薬品特許紛争の早期解決メカニズム

2025-08-13

      医薬品は国民経済と国民生活に深く関わる中核的な必需品であり、その重要性は言うまでもありません。新興の難治性疾患の克服から、一般大衆の日常的な医療ニーズへの対応に至るまで、医薬品は不可欠な役割を果たしています。しかし、新薬の研究開発プロセスは長期にわたる困難を伴い、莫大な資金、多くの人材、物資を必要とし、成功率は極めて低いため、新薬の価格が高騰し、多くの患者が購入できない状況となっています。同時に、価格が手頃で入手しやすいジェネリック医薬品は、医療費を削減し、人々の医薬品需要を満たすための重要な選択肢となっています。しかしながら、医薬品のイノベーションをいかに促進し、先発医薬品の特許権を保護し、ジェネリック医薬品の開発を促進し、両者間の特許侵害紛争による莫大な経済的損失をいかに効果的に回避するかは、喫緊の課題となっています。中国は近年、医薬品特許権者の合法的な権益を保護し、新薬研究を奨励し、高水準のジェネリック医薬品の開発を促進するため、医薬品特許紛争の早期解決メカニズムと医薬品特許期間補償制度を相次いで確立してきました。

本文を通じて、医薬品特許紛争の早期解決メカニズム(医薬品特許リンケージシステムとも呼ばれる)といくつかの最高裁判例を紹介し、読者の理解を深めることを目的としています。

1. 医薬品特許紛争の早期解決メカニズム

中国「医薬品管理法」に基づき、中国で上市される医薬品は、国務院医薬品監督管理部門の承認を得て、医薬品登録証を取得する必要があります。医薬品登録証を取得した企業または医薬品研究開発機関などは、医薬品上市許可保有者とされ、医薬品の非臨床研究、臨床試験、製造・経営、上市後調査、副作用モニタリング、報告、処理などについて責任を負います。医薬品の研究、製造、流通、保管、輸送、使用に関わるその他の組織および個人は、それぞれ相応の法的責任を負います。

「特許法」は2020年に4回目改正され、202161日に施行されます。第76条は、医薬品特許紛争の処理原則を明確にしています。

医薬品上市の審査評価、審査承認プロセスにおいて、医薬品上市許可申請者と関係特許権者または利害関係者との間で、登録出願医薬品に関する特許権に関する紛争が生じた場合、当事者は人民法院に訴訟を提起し、登録出願の医薬品に関する技術案が他人の医薬品特許権の保護範囲に属するか否かの裁定を求めることができます。国務院医薬品監督管理部門は、人民法院の有効な判決に基づき、定められた期限内に、関連医薬品の上市の承認の一時停止を決定することができます。

医薬品上市許可申請者および関係特許権者または利害関係者は、登録出願の医薬品に関する特許紛争について、国務院特許行政部門に行政裁定を請求することもできます。

国務院医薬品監督管理部門は、国務院特許行政部門と協力して、医薬品上市許可審査承認と医薬品上市許可申請段階における特許権紛争解決の具体的な連携方法を定め、国務院の同意を得て実施します。

2021年、国家医薬品監督管理局と国家知的財産局は、「医薬品特許紛争早期解決メカニズム実施方法(試行)」(以下「解決メカニズム」という)を定め、202174日に発表し実施しました。この解決メカニズムは、医薬品上市許可審査承認と医薬品上市許可申請段階における特許権紛争解決の具体的な連携を実現し、具体的な操作方法を確立しました。

解決のメカニズムについては以下で詳しく説明します。

2. 医薬品特許情報登録と声明

2.1 中国上市医薬品特許情報登録プラットフォーム

この解決メカニズムはまず、「中国上市医薬品特許情報登録プラットフォーム」(以下「特許情報登録プラットフォーム」という)を導入して、医薬品上市許可審査承認と医薬品上市許可申請段階における特許権紛争解決の具体的な連携操作に参加させます。

国務院医薬品監督管理部門は、特許情報登録プラットフォームの設置を担当し、医薬品上市許可保有者が中国国内で登録上市の医薬品に関連する特許情報を登録できるようにします。国家医薬品審査評価機関は、特許情報登録プラットフォームの維持を担当し、すでに上市が承認された医薬品の関連特許情報を公開します。このプラットフォームにて特許情報が登録されたもののみが、この解決メカニズムに適用されます。

2.2医薬品上市許可保有者の登録

医薬品上市許可保有者は、医薬品登録証を取得した後30日以内に、自ら医薬品の名称、剤型、規格、上市許可保有者、関連特許番号、特許名称、特許権者、特許被許可者、特許権設定登録日および保護期限満了日、特許状態、特許種類、医薬品と関連特許の請求範囲との対応関係、連絡先、連絡人、連絡方法等内容を登録する必要があります。関連情報が変更された場合、医薬品上市許可保有者は、情報変更が効力を発揮した後30日以内に更新を完了する必要があります。

医薬品上市許可保有者は、登録した情報の真実性、正確性、完全性に責任を負い、受け取った関連異議については、タイムリーに検証し、処理し、記録する必要があります。登録情報は、特許登録簿、特許公報、医薬品登録証の関連情報と一致する必要があり、医薬品使用特許権は、承認された上市医薬品の説明書の適応症または効能と一致し、関連特許の保護範囲は、承認された上市医薬品の関連技術方案をカバーする必要があります。関連情報の変更は、理由を説明し、公開する必要があります。

化学薬の上市許可保有者は、特許情報登録プラットフォームに、薬物活性成分化合物特許、活性成分を含む医薬品組成物特許、医薬品使用特許を登録することができます。

医薬品上市許可保有者が医薬品登録と関連特許などの情報の登録と更新を行うことで、医薬品紛争解決にこの解決メカニズムを適用することに基礎を提供します。

2.3 化学ジェネリック医薬品申請者の声明

化学ジェネリック医薬品申請者が医薬品上市許可申請を提出する際には、特許情報登録プラットフォームに公開されている特許情報と対照し、模倣される医薬品の各関連する各医薬品特許に対して声明を行う必要があります。声明は4つのカテゴリーに分かれています。

第一類声明:中国上市医薬品特許情報登録プラットフォームに、模倣される医薬品の関連特許情報が存在しないこと。

第二類声明:中国上市医薬品特許情報登録プラットフォームに収録されている模倣される医薬品の関連特許権がすでに終了しているか、無効と宣告されたか、またはジェネリック医薬品申請者が特許権者から関連特許の実施許可を得ていること。

第三類声明:中国上市医薬品特許情報登録プラットフォームに模倣される医薬品の関連特許が収録されているが、ジェネリック医薬品申請者は、関連特許権の有効期限が満了するまでの間、申請したジェネリック医薬品を上市しないことを約束すること。

第四類声明:中国上市医薬品特許情報登録プラットフォームに収録されている模倣される医薬品の関連特許権は無効と宣告されるべきであり、またはそのジェネリック医薬品は関連特許権の保護範囲に入っていないのこと。

ジェネリック医薬品申請者は、関連する声明の真実性、正確性に責任を負います。ジェネリック医薬品申請が受理された後10営業日以内に、国家医薬品審査評価機関は、情報プラットフォームを通じて、申請情報と対応する声明を社会に公開する必要があります。ジェネリック医薬品申請者は、対応する声明と声明の根拠を上市許可保有者に通知する必要があります。上市許可保有者が特許権者でない場合は、上市許可保有者が特許権者に通知します。その中で、特許権の保護範囲に入っていないと声明する場合、声明の根拠には、ジェネリック医薬品の技術方案と関連特許の関連請求範囲との対比表および関連技術資料が含まれる必要があります。紙媒体の資料に加えて、ジェネリック医薬品申請者は、上市許可保有者が特許情報登録プラットフォームに登録した電子メールアドレスに声明と声明の根拠を送信し、関連記録を保存する必要があります。

化学ジェネリック医薬品申請者の参加と声明は、潜在的な特許侵害紛争を回避し、公平な競争を促進するのに役立ちます。

2.4 漢方薬、バイオ製品の上市許可保有者の登録

漢方薬、バイオ製の上市許可保有者は、上記2.2項の医薬品上市許可保有者の登録方法に従って、特許情報登録プラットフォームに特許情報を登録することができます。

漢方薬は、漢方薬組成物特許、漢方薬抽出物特許、医薬品使用特許を登録することができます。バイオ製品は、活性成分の配列構造特許、医薬品使用特許を登録することができます。

2.5 漢方薬の同名同方薬、バイオ類似薬申請者の声明

漢方薬の同名同方薬、バイオ類似薬申請者は、上記2.3項の化学ジェネリック医薬品申請者の声明方法に従って、関連特許声明を行うことができます。

上記の登録、声明などは、誠実な原則に従って行う必要があります。虚偽の声明を提出する、意図的に保護範囲が上市の承認された医薬品と無関係である、または登録するべきでない特許種類の特許を特許情報登録プラットフォームに登録して、特許権者の関連特許権を侵害する、または他の当事者に損害を与えるなどは、法律に従って相応の責任を負います。

3. 紛争救済、紛争判定と薬審の連携

3.1 特許権者または利害関係者の救済

特許権者または利害関係者が上記「四類声明」に異議がある場合、国家医薬品審査評価機関が医薬品上市許可申請を公開してから45日以内に、申請上市する医薬品の関連技術案が関連特許の保護範囲に入っているかどうかをめぐって、人民法院に訴訟を提起するか、国務院特許行政部門に行政裁定を請求することができます。

特許権者または利害関係者が規定の期限内に訴訟を提起するか、行政裁定を請求する場合、人民法院が立案、または国務院特許行政部門が受理してから、15営業日以内に、立案受理通知書の副本を国家医薬品審査評価機関に提出し、ジェネリック医薬品申請者に通知する必要があります。

当事者が国務院特許行政部門の行政裁定に不服な場合、行政裁定書を受け取った後、法律に従って人民法院に訴訟を提起することができます。

3.2 司法/行政判定と医薬品審査評価の連携

人民法院の立案または国務院特許行政部門の受理通知書の副本を受け取った後、国務院医薬品監督管理部門は、化学ジェネリック医薬品登録申請に9か月間の待機期間を設定します。待機期間は、人民法院が立案、または国務院特許行政部門が受理の日からであり、一度だけ設定されます。待機期間中、国家医薬品審査評価機関は技術審査評価を停止しません。

待機期間を引き起こした化学ジェネリック医薬品登録申請について、特許権者または利害関係者、化学ジェネリック医薬品申請者は、判決書または決定書などを受け取った10営業日以内に、関連書類を国家医薬品審査評価機関に報告する必要があります。

技術審査評価を通過した化学ジェネリック医薬品登録申請については、国家医薬品審査評価機関は、人民法院の確定判決または国務院特許行政部門の行政裁定を合わせて、対応する処理を行います:

1)関連特許権の保護範囲に入っていることが確認された場合、特許権の期限が満了する前に、関連する化学ジェネリック医薬品登録申請を行政審査承認段階に移します。

2)関連特許権の保護範囲に入っていないことが確認された場合、または双方が和解した場合、手続きに従って、関連する化学ジェネリック医薬品登録申請を行政審査承認段階に移します。

3)関連特許権が法律に基づいて無効と宣告された場合、手続きに従って、関連する化学ジェネリック医薬品登録申請を行政審査承認段階に移します。

4)待機期間が終了し、国務院医薬品監督管理部門が人民法院の確定判決または調停書、または国務院特許行政部門の行政裁定を受け取っていない場合、手続きに従って、関連する化学ジェネリック医薬品登録申請を行政審査承認段階に移します。

5)国務院医薬品監督管理部門が行政審査承認期間中に人民法院の確定判決または国務院特許行政部門の行政裁定を受け取り、関連特許権の保護範囲に入っていることが確認された場合、関連する化学ジェネリック医薬品登録申請を国家医薬品審査評価機関に引き渡し、上記(1)の規定に従って処理します。

国務院医薬品監督管理部門が承認の一時停止の決定を出した後、人民法院が元の行政裁定を履かえる、双方が和解する、関連特許権が無効と宣告される、特許権者、利害関係者が訴訟または行政裁定の請求を撤回される場合、ジェネリック医薬品申請者は、国務院医薬品監督管理部門にジェネリック医薬品の上市の承認を申請することができ、国務院医薬品監督管理部門は、承認するかどうかの決定を出すことができます。

第一類、第二類声明の化学ジェネリック医薬品登録申請については、国務院医薬品監督管理部門は、技術審査評価の結論に基づいて、上市を承認するかどうかの決定を出します。第三類声明の化学ジェネリック医薬品登録申請については、技術審査評価を通過した場合、上市を承認する決定を出し、関連する医薬品は、関連特許権の有効期限と市場独占期間が満了後に上市することができます。

漢方薬の同名同方薬とバイオ類似薬の登録申請については、国務院医薬品監督管理部門は、技術審査評価の結論に基づいて、直接上市を承認するかどうかの決定を出します。人民法院または国務院特許行政部門により関連技術方案が関連特許権の保護範囲に入っていることが確認された場合、関連する医薬品は、関連特許権の有効期限が満了後に上市することができます。

3.3 期日を過ぎて訴訟を起こさない場合の黙示承認

特許権者または利害関係者が規定の期限内に訴訟の提起、または行政裁定の請求を行っていない場合、国務院医薬品監督管理部門は、技術審査評価の結論とジェネリック医薬品申請者が提出した声明の状況に基づいて、直接上市を承認するかどうかの決定を出し、ジェネリック医薬品申請者は、関連規定に従って訴訟を提起する、または行政裁定を請求することができます。

3.4 最初に特許に挑戦し、最初に承認された場合の待遇

最初に特許に挑戦して成功し、最初に上市を承認される化学ジェネリック医薬品については、市場独占期間が与えられます。国務院医薬品監督管理部門は、該医薬品が承認されてから12か月以内に、同一品目のジェネリック医薬品の上市を承認しません(共同で特許に挑戦して成功した場合は除く)。市場独占期間は、挑戦された医薬品の元の特許権期限を超過しません。市場独占期間中、国家医薬品審査評価機関は技術審査評価を停止しません。技術審査評価を通過した化学ジェネリック医薬品登録申請については、市場独占期間が終了する前に、関連の化学ジェネリック医薬品登録申請を行政審査承認段階に移します。

特許に挑戦して成功するとは、化学ジェネリック医薬品申請者が四類声明を提出し、その提出した特許権無効宣告請求により、関連特許権が無効と宣告され、その結果、ジェネリック医薬品が承認されて上市することができるとのことです。

3.5 ジェネリック医薬品の上市が承認された後の特許紛争

化学ジェネリック医薬品、漢方薬の同名同方薬、バイオ類似薬などの上市が承認された後、特許権者または利害関係者が関連する医薬品がその関連特許権を侵害すると認め、紛争が発生した場合、特許法の関連規定に従って、人民法院に訴訟を提起する、または特許を管理する部門に処理を請求することができます。

すでに法律に基づいて承認された医薬品上市許可の決定は取り消されず、その効力には影響しません。

上記のように、医薬品特許紛争の早期解決メカニズムは、医薬品上市許可保有者が特許情報登録プラットフォームに医薬品登録と関連特許の情報を登録し、ジェネリック医薬品申請者が関連特許に対して声明を行い、特許権者または利害関係者がその声明に対する異議に訴訟または行政裁定を請求し、裁判所/行政判定の結果が医薬品審査評価に影響を与えるメカニズムの設定を通じて、ジェネリック医薬品の上市の審査承認プロセスで、原薬とジェネリック医薬品の間の特許紛争を解決し、革新薬とジェネリック医薬品の協調発展を促進し、医薬品業界の健全な発展を推進します。

しかし、この解決メカニズムは、医薬品特許紛争を解決する方法の1つに過ぎず、唯一の方法ではありません。関連権利者は、特許法の他の規定に基づいて、特許権に基づいて、特許侵害行為に対して、直接人民法院に訴訟を提起するか、行政機関に処理を請求することができます。

4. 具体的な事例のさらなる解釈

4.1 結晶型の医薬品使用特許は解決メカニズムに適用されない

スウェーデンの某会社は、糖尿病治療用の某化学薬の発明特許の請求項9を特許情報登録プラットフォームに登録し、登録された特許の種類は化学薬品の医薬品使用特許であり、その請求項は、同社の上市が承認された原薬と関連しています。

四川の某会社は、上記の原薬のジェネリック医薬品に対し、国家医薬品監督管理局に上市許可申請を提出し、第四類声明を行いました。申請は受理されました。

スウェーデンの某会社は、そのジェネリック医薬品が事件の特許の請求項9の保護範囲に入っていると認め、特許法第76条に基づいて訴訟を提起し、裁判所にそのジェネリック医薬品がスウェーデンの某会社の特許の請求項9の保護範囲に入っていることを確認するよう求めました。

四川の某会社は、次のように主張しました:事件の特許の請求項9は実質的に結晶型の特許を保護しており、医薬品特許紛争早期解決メカニズム実施方法で規定された特許の種類に属しておらず、スウェーデンの某会社が、特許法第76条に基づいてこの訴訟を提起する権利がない。

一審裁判所は、そのジェネリック医薬品の技術案が事件の特許の請求項9の保護範囲に入っていることを確認するとの判決を出しました。

四川の某会社は、事件の請求項9結晶型の特許に属し、医薬品特許紛争早期解決メカニズム実施方法で規定された特許の種類に属していないことを理由に、しました。

最高裁は、一審裁判所の判決を取り消し、スウェーデンの某会社の訴訟を却下しました。

この裁定の分析からわかるように、この解決メカニズムで登録できる化学薬の特許の種類は、薬物活性成分化合物特許、活性成分を含む医薬品組成物特許、および前の両者の医薬品使用特許であるべきです。既存の分子構造で表現された化合物に基づいて、さらに結晶単位格子パラメーターなどで特徴付ける化合物特許、該化合物を含む組成物特許、およびこれらの医薬使用特許は、該解決メカニズムで登録できる特許の種類にまだ属していません。スウェーデンの某会社が登録した請求項9は、結晶構造の具体的な使用であり、解決メカニズムで規定された特許の種類に属していないため、特許法第76条に基づいてこの訴訟を提起する権利がないため、訴訟を却下すべきです。

国家医薬品監督管理局が202174日に発表した医薬品特許紛争早期解決メカニズム実施方法の政策解釈によりますと、登録できる医薬品特許には、化学薬(原料薬を含まない)の薬物活性成分化合物特許、活性成分を含む医薬品組成物特許、医薬品使用特許;漢方薬の漢方薬組成物特許、漢方薬抽出物特許、医薬品使用特許;バイオ製品の活性成分の配列構造特許、医薬品使用特許が含まれます。関連特許には、中間体、代謝産物、結晶型、製造方法、検出方法などの特許は含まれません。

これらの除外された医薬品特許は、この解決メカニズムを通じて特許紛争を処理することができませんが、特許権者は依然として特許法の他の関連規定に従って、その正当な権益を維持し、適切な時期に司法または行政救済を求めることができます

4.2 原薬の技術案が特許の保護範囲に入っていないため、訴訟の条件を満たしていない

日本の某株式会社はつぎのように訴えました。

その株式会社は、「インターロイキン - 6関連疾患の治療方法」の2つの発明特許(事件の特許12)の権利者です。事件の原薬の上市許可保有者は、事件の特許の関連情報を特許情報登録プラットフォームに登録し、公示しました。珠海の某会社が登録出願の「トシリズマブ注射液」(事件のバイオ類似薬)は、国家医薬品監督管理局によって、類湿性関節炎(RA)を治療するためにメソトレキセート(MTX)と併用することに承認されました。トシリズマブは、事件の特許の請求項で限定されたMRAであり、珠海の某会社が事件のバイオ類似薬をメソトレキセート(MTX)と併用して類湿性関節炎を治療するために使用し、事件のバイオ類似薬は事件の原薬と同じ用法用量を有します。したがって、事件のバイオ類似薬の技術案が、事件の特許1の請求項1 - 9と事件の特許2の請求項1 - 5の保護範囲に入っています。さらに、珠海の会社が特許情報登録プラットフォームで行った特許声明や、事件の原薬の上市許可保有者(案外第三者)に送信したメールでは、いずれも事件の特許権が無効と宣言されるべきであると主張しました。つまり、その会社は、登録出願する事件のバイオ類似薬の技術方案が、事件の特許1の請求項1 - 9と事件の特許2の請求項1 - 5の保護範囲に入っていることを認めました。したがって、事件のバイオ類似薬の技術案が、事件の特許1の請求項1 - 9、事件の特許2の請求項1 - 5の保護範囲に入っていることを確認するよう求めます。

珠海の某会社は次のように主張しました:事件の特許1と事件の特許2は、いずれも特許法第76条で定義される「関連する特許」に属しておらず、日本の某株式会社は、この規定に基づいて事件の訴訟を提起する権利がないため、訴訟を却下すべきである。

一審裁判所の判決:バイオ類似薬の技術案は、事件の特許1の請求項1 - 9の保護範囲に入り、事件の特許2の請求項1 - 5の保護範囲に入ると確認する。

判決後、某バイオ会社は、事件の特許1の請求項1と事件の特許2の請求項1が、いずれも特許法第76条で定義される「登録出願する医薬品に関連する特許」に属していないことを理由に、日本の某株式会社が事件の訴訟を提起する権利がないことを理由に、控訴しました。

最高裁の裁定:一審裁判所の民事判決を取り消し、日本の某株式会社の訴訟を却下する。

最高裁の裁定の分析からわかるように、

事件の特許1の請求項1は、MRAとメソトレキセートの類湿性関節炎を治療するための特定の包装形態の医薬品組成製品の製造における使用と解釈されるべきです。事件の特許2の請求項1は、MRAMTXの類湿性関節炎を治療するための特定の包装形態の医薬品組成製品の製造における使用と解釈されるべきです。事件の原薬製品はトシリズマブ注射液であり、説明書にメソトレキセートと併用できると記載されているだけで、つまり、単一物質のみに関わり、特定の包装形態の医薬品組成製品を構成するわけではなく、したがって、必然的に事件の特許の請求項1 - 9の保護範囲には入りません。事件の原薬製品はトシリズマブ注射液であり、医薬品説明書にMTXと併用できると記載されているだけで、つまり、単一物質のみに関わり、特定の包装形態の医薬品組成製品を構成するわけではなく、したがって、必然的に事件の特許の請求項1 - 5の保護範囲には入りません。

これによって、最高裁は、日本の某株式会社の訴訟が特許法第76条第1項の規定に適合しないと認定し、却下すべきだと認定しました。

この件から見ますと、解決メカニズムに従って特許紛争を処理する場合、特許情報は特許情報登録プラットフォームに登録する必要があり、医薬品と関連特許の請求項は対応する必要があります。特許情報登録プラットフォームに登録されていない特許情報は、この解決メカニズムに適用されません。原薬の技術案が登録された特許の請求項の保護範囲に入っていない場合、訴訟の必要条件を満たさないものとします。

もちろん、ジェネリック医薬品の技術案が特許の請求項の保護範囲に入っている場合、特許権者は依然として特許法の他の関連規定に基づいて、その正当な権益を維持し、適切な時期に司法または行政救済を求めることができます。

4.3 ジェネリック医薬品と原薬との違いがスペックに限られる場合、ジェネリック医薬品の申請者は、既に登録されている原薬の他のスペックに登録されている特許と対照して声明を出すべきです

甲会社は、事件の発明特許の権利者です。事件の特許の保護範囲は、パルボシクリブ活性成分を含むすべての剤型の医薬品をカバーしており、パルボシクリブカプセルとパルボシクリブ錠剤が含まれます。甲会社は、2021630日に、事件の特許を75mg100mg125mg3つのスペックのパルボシクリブカプセルの関連特許として、特許情報登録プラットフォームに登録し、登録された請求項は1 - 4です。25mg125mgのスペックで、錠剤タイプのパルボシクリブ錠剤の原薬は、2022810日に中国での上市が承認されました。202296日、甲会社は、事件の特許を25mg125mg2つのスペックのパルボシクリブ錠剤の関連特許として、特許情報登録プラットフォームに登録し、登録された請求項は1 - 4です。

国家医薬品監督管理局は、2022412日に、乙製薬会社が提出したパルボシクリブ錠剤のジェネリック医薬品登録申請を受け付けました。剤型は錠剤で、スペックは75mg100mg125mg3つです。事件の特許に対して、乙製薬会社は、特許情報登録プラットフォームに模倣される医薬品の関連する特許情報のない第一類声明を出しました。

甲会社は次のように訴えました:某製薬会社が行った第一類声明は虚偽で正確ではなく、事件の特許に対して無効宣言請求を行ったことがあるため、その本当の意味は第四類声明である。乙製薬会社が登録出願する事件のジェネリック医薬品の技術方案が、事件の特許の請求項1 - 4の保護範囲に入っていることの確認を求める。

乙製薬会社は次のように主張しました:75mg100mgのスペックのパルボシクリブ錠剤に対しては、現在、特許情報登録プラットフォームに公示されている対応する模倣される医薬品やその特許情報は見当たらない。125mgのスペックのパルボシクリブ錠剤に対しては、登録公示された特許情報は、その声明の作成時間より遅い。事件の特許に対する無効宣言請求と行政訴訟の日付は、いずれも我が国の医薬品特許リンク制度の実施時間よりも早く、事件のジェネリック医薬品の申請時間よりも早く、したがって、甲会社の事件の特許に対するその声明が第四類声明であるべきとの観点は根拠に欠けている。したがって、第一類声明を行うことは、事実と法律の根拠がある。甲会社の訴訟は法定条件を満たしていない。

一審裁判所の民事裁定:甲会社の訴訟を却下する。

甲会社は不服とし、控訴し、次のように主張しました:「模倣される医薬品」は、承認された上市医薬品に限らず、ジェネリック医薬品の申請者は、特許情報登録プラットフォームに登録された模倣される医薬品の「関連する医薬品特許」ごとに声明を出すべきである。本案の事情は特殊で、事件の特許はすでに特許情報登録プラットフォームに登録されており、ジェネリック医薬品の技術案が事件の特許権の保護範囲に入っている。乙製薬会社は上記の事実を知っているため、その第一類声明は不真实、不正確で、実質的には第四類声明に属する。

最高裁の裁定:控訴を却下し、元の裁定を維持する。

最高裁の裁定の分析からわかるように、

中国で上市された模倣される医薬品は、特許情報登録プラットフォームに登録されている特許の請求項と対応関係が存在すべきであります。事件の特許は、中国で上市されたパルボシクリブ錠剤に対応して登録された特許ではなく、パルボシクリブ錠剤の「関連する特許」に属していないため、甲会社の訴訟は特許法第76条に定められた条件を満たしておらず、却下されるべきであります。

我が国の現行の医薬品管理体制では、スペックのみに違いがある化学医薬品も、それぞれに登録出願を行い、異なる承認番号を得る必要がありますが、同一剤型のジェネリック医薬品は、異なるスペックの原薬を使用して基準製剤とすることができ、該基準製剤と品質および効果の一致性データを登録出願の根拠とすることができます。したがって、模倣される医薬品とスペックのみの違がある原薬が、すでに特許情報登録プラットフォームに特許が登録されている場合、ジェネリック医薬品の申請者は、原則として、特許情報登録プラットフォームに登録され該模倣される医薬品の他のスペックの下に登録された関連特許と対照して声明を出すべきです。

同様に、医薬品特許紛争の早期解決メカニズムは、医薬品特許紛争を解決する唯一の方法ではありません。特許権者は、特許法の他の関連規定に基づいて、その正当な権益を維持し、適切な時期に司法または行政救済を求めることができます

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以上のような内容がご参考になれば幸いです。医薬品特許紛争解決メカニズムは引き続き発展しています。AFDは引き続き関連する法的動向に注目し、最新の情報を提供し続けます。

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